建設業許可を取得するためには複数の要件がありますが、その中でも特にクリアすることが困難となるのが、経営業務の管理責任者(経管)についてです。
都庁や県庁で用意されている手引きや、インターネットで検索して出てくるページには、経管の要件といった一般論についてはわかりますが、個別のケースについての細かな内容は簡単には見つかりません。
そこで、建設業許可を取得したい方から経管についてよくいただく質問をまとめましたので、是非参考にしてください。
経管の要件について詳しくは、経営業務の管理責任者になるための要件を詳しく説明いたします!をご覧ください。
目次
- 経管の要件を満たせない場合はどうすれば良いのか?
- 非常勤の役員であった場合は経営経験にならないのか?
- 経営経験は1社だけの経験でないといけないのか?
- 執行役員や部長での経験は経営経験とならないのか?
- 倒産等で存在していない会社の経営経験は認められないのか?
- 過去に経管となっていた会社が倒産した場合は別の会社で経管になれないのか?
- 現住所と住民票の住所が異なる場合はどうすれば良いのか?
- 役員として重任登記がされていなかった場合はどうすれば良いのか?
- 経管には出向者でもなることができるのか?
- 経管には外国人でもなることができるのか?
- 経管と専任技術者は兼任することができるのか?
経管の要件を満たせない場合はどうすれば良いのか?
要件を満たしていない以上、建設業許可を取得することはできません。よって、許可を取得するためには何とかして経管の要件をクリアしなければなりません。
方向性としては2つです。
1つ目が要件を満たす人を雇用すること、2つ目が要件を満たすだけの経験を積むこと、となります。
要件を満たす人を雇用
許可申請者が株式会社などの法人であれば、役員の中に1人、経管の要件を満たす人がいれば良いため、要件を満たす人を雇用し役員として登記すれば、要件クリアとなります。
許可申請者が個人事業主であっても、経管の要件を満たす人を雇用し、支配人として登記をすることで、要件クリアとなります。
注意していただきたいのが、経管の要件を満たしていることは書面により証明しなければいけませんので、正式に雇用する前に、資料が用意できるかを必ず確認するようにしてください。
要件を満たすだけの経験を積む
経管の要件がクリアできないと建設業許可は取得できませんが、許可が無くても500万円未満の軽微な工事は請け負うことができます。
時間はかかりますが、経管の要件をクリアできるまで、500万円未満の軽微な工事で経験を積むことで、いずれは要件がクリアできる時が来ます。
注意点として、経験を積んだことは請負工事の契約書や注文書、請求書によって確認しますので、こうした資料は大切に保管してください。また、契約書や注文書が無く、請求書を提出する場合には、請求に対する入金を確認するための資料も必要となります。そのため、現金手渡しではなく振込みにて、しっかりと通帳に履歴が残るようにしてください。
非常勤の役員であった場合は経営経験にならないのか?
経管となるための経営経験については、常勤性は求められていません。
つまり、非常勤の取締役であったとしても、その期間が5年以上で、かつその期間に建設業を行っていたことが確認できれば、経管の要件はクリアとなります。
しかし、経管となる方は、許可申請者に常勤で勤務していなければなりません。
過去の経験には常勤性は必要ありませんが、現時点での常勤性は必要となります。
この点を混同しないように注意してください。
また、専任技術者については、現在の常勤性はもちろんのこと、過去の実務経験においても常勤性が必要となります。
経営経験は1社だけの経験でないといけないのか?
1社だけの経験である必要はありません。
過去の全ての経歴において、合算して5年以上の経験があれば要件クリアとなります。
例えば、許可申請者A社の役員であるXさんの経歴が以下であったとします。また全ての期間に建設業を行っていたとします。
- 平成19年4月~平成23年3月 B社の取締役
- 平成23年4月~平成25年3月 個人事業主
- 平成25年4月~平成27年3月 A社の取締役
B社での経営経験は4年、個人事業主としての経営経験は2年、A社での経営経験は2年となり、単独でみると全て5年未満ですが、合算すると8年の経営経験があります。
よって、Xさんはどの業種においても経管となることができます。
執行役員や部長での経験は経営経験とならないのか?
経営経験として認められる可能性はありますが、審査官が納得するだけの資料を用意できるかが問題となります。
基本的に経営経験には、登記された役員や個人事業主であったことが必要となり、例外措置として、執行役員や部長としての経験が認められる余地があります。
こうした経験が認められるかは、建設業許可を審査する審査官の判断次第となるため、事前に審査官と相談をしながら進めていく必要があります。
以下が、審査官に求められるであろう資料となります。
- 組織図
- 定款
- 建設業に関する事業部門であることを示す業務分掌規程
- 権限委任を受けた際の取締役会議事録
- 執行役員規程
- 職務権限規程
- 建設業の業務に関する稟議書
- 請負工事の契約書や注文書類
このように多くの資料が必要となり、契約締結や資材の発注、技術者の配置など建設業に関する重要な権限を、取締役会や代表取締役から委任されていることを証明しなければなりません。
単に部長といった役職があるだけでは経営経験とは認められません。
組織図や定款などは用意できるかと思います。
しかし、大企業やコンプライアンスを徹底している会社でもない限り、取締役会議事録や各種規程を用意することはかなり難しいでしょう。
上記が全て用意できたとしても、最終的に経営経験と認められるかは、用意された資料をもとに審査官が総合的に判断します。
倒産等で存在していない会社の経営経験は認められないのか?
倒産した会社でも、経営経験を証明するための資料が用意できれば問題ありません。
経管となるための経営経験を証明するためには、経営者となっていたことと、その期間にその会社が建設業を営んでいたことの2つを示さなければなりません。
経営者となっていたことについて
登記簿謄本にて確認となります。倒産した会社の商号と本店所在地さえわかれば、法務局にて登記簿謄本(閉鎖謄本)を取得することができます。
建設業を営んでいたことについて
倒産した会社が建設業許可を取得していたか、取得していないかで証明の難易度は大きく異なります。
建設業許可を取得していた場合
許可を取得していた期間や許可を受けた業種等の情報が国のデータベースに残っているはずです。そのデータベースで照会できる範囲において建設業を営んでいたことの証明となります。
データベースの確認方法は、都庁や県庁の審査窓口へ問い合わせていただき、商号、本店所在地、建設業許可番号などを伝えることで確認することができます。
建設業許可を取得していなかった場合
当時の請負工事に関する契約書や注文書、請求書等が必要となります。会社が存在しなくなってから長い時間が経ってしまっていると、こうした資料を用意するのは非常に難しいと思いますが、何とかして用意していただかなければ、経営経験とすることができなくなります。
過去に経管となっていた会社が倒産した場合は別の会社で経管になれないのか?
倒産の理由や、その会社の建設業許可が廃業となっているか次第となります。
倒産の理由によっては欠格要件にふれてしまう
倒産の理由として建設業法違反が根本にある場合は、欠格要件にふれてしまう可能性があります。
例えば、建設業法違反により許可を取り消され、それが原因で工事ができず倒産となった場合、許可の取り消しの際に役員であった人は取り消しから5年を経過しない限り、新たに建設業許可を取得することはできません。
建設業許可における廃業届の提出が必要
欠格要件に該当していなくても、廃業届を出さない限り経管になれない場合があり得ます。
会社が破産等で倒産したとしても、自動的に建設業許可が廃業となる訳ではありません。廃業届の提出や5年の有効期間が経過していない限り、建設業許可は有効となり、倒産した会社の経管となっていることになります。新たな会社の経管となるためにはその会社で常勤となることが必要ですが、別の会社の経管になっていると、常勤にならなくなってしまいます。よって、倒産した会社の建設業許可が有効である場合には廃業届を出さなければなりません。
現住所と住民票の住所が異なる場合はどうすれば良いのか?
経管になるためには常勤として勤務できる状態でなければならず、それを確認するために住民票の提出が求められています。住民票の住所と営業所の住所を比べ、常勤として勤務できる距離かを確認します。
単身赴任などによって住民票の住所は遠方で、実際に住んでいる現住所は住民票とは別の住所となる場合には、経管の常勤性を証明するために追加で必要となる資料があります。
実態として本当に現住所に住んでいるのかを証明しなければなりません。
必要となる資料は主に以下の2つとなります。
- 現住所の賃貸借契約書
- 現住所の水光熱費の利用明細(直近3カ月分)
また、営業所までの通勤時間が片道で2時間以上になる場合には、通勤のための定期券、交通費の明細書、ETCの利用明細なども必要となります。
役員として重任登記がされていなかった場合はどうすれば良いのか?
経管の経営経験において、経営者であった期間は登記簿謄本にて確認します。
登記簿謄本には役員として就任した日付や、再任(重任)された日付、退任した日付が記載されます。そして、経営者であった期間は、これらの登記簿謄本に記載された日付をもとにカウントされます。
平成18年に施行された会社法において、役員の任期は最長10年となりました。平成18年以降に設立された会社の多くが、役員任期を10年にしていると思いますのでその場合は問題ありませんが、平成18年以前の会社においては、役員の任期を2年としている場合があります。(役員の任期は定款にて確認できます。)
その場合、役員に任期があることを忘れ、任期を過ぎても再任の登記(重任登記)を行っていないと、登記簿謄本上には役員の就任時期しか記載されていないことになり、経営者であった期間がほとんど認められなくなってしまいます。
※平成18年以降に、役員の任期を10年に変更している場合は、その変更の議事録を提出することで、経営者であった期間を証明することができます。
登記簿謄本にて役員任期が確認できない場合の打開策として、登記簿謄本の代わりに、決算書において役員報酬を支給していることを示すことで、経営者であった期間を証明することができます。
もし役員報酬を支給していないなど、役員であったことが確認できない場合は、遡って重任の登記をしていただく必要があります。しかし、通常、重任登記は役員の任期終了後2週間以内に行わなければならず、その期間を過ぎてしまうと過料(罰金)を支払わなければなりません。恐らく期限を大幅に過ぎてしまっているため、過料の額もかなりの高額になってしまいます。
経管には出向者でもなることができるのか?
可能ですが、常勤性を証明するために追加で必要となる資料があります。
前提として、経管となるためには許可申請者の登記された役員になっていなければなりません。執行役員や役員待遇としての出向では経管にはなれません。
常勤性を証明するための資料として、
- 住民票
- 社会保険証
が必要となります。
通常は、社会保険証の事業者名は許可申請者(出向先)となっているはずですが、出向になると、この事業所名が出向元の会社になっているかと思われます。
その場合は、追加で以下のような資料が必要となります。
- 出向契約書や覚書、協定書
- 出向元から出向先への請求書、もしくは振込依頼書(直近3カ月分)
- 出向先の支払いがわかる資料(通帳や銀行の取引明細など)
- 出向元の賃金台帳
- 出向先での出向者のタイムカード
- 出向者の通勤定期券
出向者の氏名や、出向期間、業務内容が記載され、出向者の賃金相当分を出向先が負担することがわかる内容のもの。出向者の氏名が記載されていない場合は、氏名が確認できる出向命令書や辞令も必要。
※状況により必要となる資料は異なりますので、詳しくは管轄となる申請窓口へ問い合わせください。
経管には外国人でもなることができるのか?
可能です。経管の要件として日本国籍は求められていません。
ただし、経管となる方が外国人の場合には、必要となる書類が異なります。
まず、経管の要件の常勤性を証明するために「住民票」が必要となりますが、外国人の場合は取得することができないため、代わりに「外国人登録原票記載事項証明書」を提出します。
また、経管となるには会社の役員となり、会社の役員には「登記されていないことの証明書」と「身分証明書」の提出が必要です。外国人では本籍地が無いため、「身分証明書」の取得は必要なくなります。「登記されていないことの証明書」は外国人でも取得することができますが、取得の際には国籍を記載するようにしてください。
経管と専任技術者は兼任することができるのか?
兼任することはできますが、同一の営業所に限られます。
経管は主たる営業所(主に本店)に常勤で勤務していることが必要ですが、専任技術者は各営業所にそれぞれ一人が常勤で勤務していなければなりません。
例えば営業所として本店しかなければ兼任は問題ありませんが、本店の他に複数の営業所がある場合は、経管となる人は本店以外の専任技術者を兼ねることはできません。